人類全員「ルポルタージュ」を読め ~幸せと恋愛とエトセトラ~
売野機子さんの漫画、「ルポルタージュ ―追悼記事―」がとてつもなく面白い。
私が今追いかけている漫画、新しい単行本が出るのはまだかまだかと楽しみに待ちわびている漫画はハンター×ハンターとこのルポルタージュの2つである。
つい最近、3月22日に最新2巻が出た。2巻といっても途中でバーズ誌(3巻分)からモーニング・ツー誌へ移ったのでシリーズ的には5巻目である。
ルポルタージュ 1巻 (バーズ)
ルポルタージュ ―追悼記事― 1巻 (モーツー)
ルポルタージュは一言で言うと恋愛が当たり前じゃなくなった近未来でそれでも恋愛をする人にスポットライトを当てた漫画だ。
近未来といってもそれは2034年で、ネコ型ロボットはまだいないし、今と同じようにテレビではクイズ番組が放送されている。
ただ、クイズの内容は現代とは異なる。
『さ~て今日も3組の本物の夫婦に来てもらいました』
『この中に1組だけ恋愛で結ばれたカップルがいますよ~』
と司会が言う。
それに対し、『え~~コレはむずいわ~』とタレント。その様子を見て笑う会場。
そう、この漫画の世界では恋愛をしている方が少数派で、話のネタになるのだ。多くのカップルはマッチングサイトに登録し、合理的に、恋愛を「飛ばして」結婚する。
漫画というのはやはり絵やコマ割りがあってこそなので、文章で具体的な内容に触れるのはここまでにするが、興味がある人は是非読んでみてほしい。
おすすめはバーズ版から読むことだが公式っぽい試し読みはモーツー版だったのでそちらのリンクを貼っておく。
無性に恋愛モノを読みたくなる期間というのが誰にも訪れると思う。もちろん私も例外ではなく、そういう時は図書館やTSUTAYAレンタルに駆け込むのだ。
おかげで恋愛漫画もそこそこの数を読んでいてバクマン。や惡の華、ガチ少女漫画のNANAや3D彼女、最近ではからかい上手の高木さんにかぐや様は告らせたい等々押さえている。漫画ではないが図書館戦争も別冊までしっかり読んだ。
思うに恋愛モノは所謂「尊い」コンテンツとして消費されるのが最近の傾向である。それは上に挙げた高木さんやかぐや様、さらには急激に増えつつあるTwitter漫画からも明らかだろう。
恋愛を通して揺れ動く登場キャラクターたちの心情、三角関係はもう時代遅れでライバルの存在しない約束された勝利、永遠に終わらない付き合う前の一番楽しい期間、え?こいつらもう付き合ってるの?付き合ってないの?付き合ってるの?付き合ってないの?はよ付き合えや、うーん、胸キュン!wwっていうのが最近主流の恋愛漫画であり、その楽しまれ方ではないだろうか。
わかる。人が幸せそうにしてるの見るのってなんか無性に楽しいもんな。フィクション・ノンフィクション関係無くニヤニヤしちゃうよな。一体あれは何なんだろうな。
自分はルポルタージュを読んで「尊さ」を感じたことは一度も無い。ニヤニヤが込み上がってくる気配を感じたことも無い。
この漫画の面白さはそういうベクトルじゃない。もっと生身の、冷たくはないんだけど、常温なんだけどずっしりと重みのある、そういった面白さだ。
作者の売野機子さんはかなり慎重に言葉を選ばれているように思う。
この漫画が扱う題材は決して軽いものでは無いし、むしろ毛嫌いする人もいるんじゃないかとさえ思うが、売野さんが書きたいことがキャラクターの言葉を通してすごく素直に入ってくる感じがする。
この漫画を読むと恋愛をすること、人と深く関わることで生じる嫌なことが色々見えてくる。頭に浮かぶ。
なのに。それなのに。自分の中に生まれるのは恋愛に対する嫌悪感ではなく憧れである。それはきっと売野機子さんのさっぱりとしてそれでいて鮮やかな言葉選びがあるからだと思う。
最近高校の同級生と集まる機会があった。
そういう場では自然と恋愛の話になったりする。みんな恋愛をしていた。
新しく恋愛を成就させた人、一つの恋愛が終わってしまった人、来る恋愛に想いを馳せる人。色んな人がいたが多くの人の目には恋愛に対する憧れがうかがえた。
今、自分の目もこの相手と同じように輝いているだろうか。自分はまだ恋愛に憧れることが出来ているだろうか。
誰かと恋バナをする時、そんなことをよく考える。
相手の口からは色とりどりの私を飽きさせない恋バナが出てくる。
ならばお返しに私も、と自分の引き出しをひっくり返してみるが新しい恋愛話は出てこなかった。
そう、みんな恋愛をしていた。みんなは恋愛をしていた。
幸せ=恋愛の成就・結婚
そんな風に方程式を立てるのはきっともう時代遅れなんだろう。
親戚なんかに今後の結婚や子育てについての話を振られるのをひどく嫌う同世代も多い。世のおじさん・おばさんたちよ、若い世代との話題として将来の展望を扱うのはもうやめた方がいい。そんなことよりもポケモンGOの話でもした方がずいぶん印象が良いだろう。
みんなどこかで感じていると思うが今日本では恋愛周りの価値観が大きく変わってきている。ちょうど今が過渡期なんじゃないかと思う。
女性の社会進出と同性愛の2つの事柄が重なってより複雑な話題になっていると思う。
恋愛に憧れる人、恋愛との距離を曖昧にする人、恋愛を拒む人。
きっとみんな自分と恋愛の関係を一度は振り返っている。
私の場合はどうだろうか。私と恋愛の距離感はどれぐらいだろうか。
憧れと拒絶。どちらにも当てはまると思う。揺れ動いていると思う。
きっと決めなくていい。この漫画を読んだ自分なら、どちらに転んでも受け入れられると思う。恋愛に憧れる自分にも、恋愛を拒絶する自分にも、劣等感を感じずにいられると思う。
たぶん私はルポルタージュに救われている。