天丼とブルートレイン
財布の中身を整理していたらこんなものが出てきた。
大阪の福島〜中之島間にある天丼屋の割引券だ。
この天丼屋は中学生の頃によく通っていた。
福島には関西将棋会館という日本有数の将棋施設があり、私はそこに毎週将棋を指しに行っていた。最寄り駅から京阪終点中之島駅まで電車に乗り、そこから歩いて福島を目指す。汚い川を越えたすぐ先にあるのがこの天丼屋で行きがけによくここで昼ごはんを食べた。
会計の時にいつもこの「また来てね券」を渡された。中学生の私は素直だったからまた来てねと言われるままにまた行った。2回目以降はずーっと定価−50円の恩恵が受けられた。うろ覚えだけど600円くらいで天丼・味噌汁・お新香が食べられた気がする。
その日もいつもと同じように天丼を食べていた。11時半ごろ、お店は空いていてカウンターには私一人だった。
するとお店の有線から聴き覚えのある曲が聴こえてきた。このイントロ聴いたことある。それもかなり最近だ。何だっけこの曲。ボーカルを聴けばバンドはわかる気がするけどイントロが長過ぎる。
あ!やっとボーカルがきた!これは……アジカンだ!!進研ゼミのCMソング、「マーチングバンド」で興味を持って最近聴き始めたアジカンだ!名前は思い出せないけどこの曲はついこの前買ったBEST HIT AKGの中に収録されてた曲だ!!
お店を出て将棋会館に向かう道すがら、ウォークマンでBEST HIT AKGの曲を上から再生していく。真ん中ぐらいにその曲は、あのイントロはあった。
私が初めて「ブルートレイン」を認識した瞬間である。
初めてBEST HIT AKGを聴いたとき第一印象で好きだと思ったのは未来の欠片やアフターダークだった。ズンタン ズズンダン ズダン ズズタン。アフターダークのイントロはカッコよかった。
「夜風が運ぶ 淡い希望を乗せて 何処まで行けるか」
サビの歌詞も中学生の私に効果はばつぐんだ。私はわかりやすいカッコよさ・ロックンロールに惹かれた。
聴いていく内にアルバムの中のポップな曲の良さに気づく。君の街まで、ループ&ループ、ブラックアウト。この並び、最強じゃないか?
ブルートレインは私のロックンロールアンテナとポップンロールアンテナのどちらにも引っかからなかった。何だかパッとしなかったのだ。
「此処で剥きだしで走る夕 歪なレール上を転がるように」
歌詞カードを見た時、夕ってなんだよ、と思った。今でも夕が何なのかはわからない。
年月が流れて、中学生から大学生になって、Spotifyのアジカンのページを開いた時に私の指が真っ先に吸い込まれていくのは、未来の欠片やアフターダークではなくブルートレイン、ムスタング、新世紀のラブソングだった。
今でも未来の欠片やアフターダークはカッコいいと思う。嫌いになったわけじゃない。
ブルートレイン、ムスタング、新世紀のラブソングのどこが好きなの?って聞かれたら口籠る。どこが好きなのか上手く説明できないから今でも聴いているんだと思う。不思議なもんだよなぁ。
天丼を食べるとブルートレインを思い出すしブルートレインを聴くとあの天丼屋を思い出す。天丼とブルートレインをこんな風に結び付けているのはきっと世界で1人だけだろうなぁ。そんな風に思うと今までの自分の人生も悪いもんじゃないと思えた。