こたつモラトリアム

できることなら永遠にここで暖をとっていたい

カリヨン塔のふたり


 

好きなテレビ番組は?

そう聞かれた時の私の答えは3つに決まっている。

 

一つはモヤモヤさまぁ~ず。

一つはNHK杯将棋トーナメント。

そしてもう一つは世界ふれあい街歩きだ。

 

 

あなたは知っていますか?NHK BSの神番組、「世界ふれあい街歩き」を。

www4.nhk.or.jp

 

 

毎週火曜の夜20:00~BSプレミアムで放送されているこの番組は、世界の街を気ままに歩く旅番組だ。実際に街を歩いているような気分になれる「疑似体験」を視聴者に与える、というコンセプトがとことん追求され、NHKらしい落ち着いていて質の高い番組になっている。

私はこの番組が大好きで、実家に帰るなどしてテレビが見られる環境にあると欠かさず必ず見る。好き過ぎてNHKオンデマンドでわざわざ単品購入して見ることさえある。

 

 

番組は目的の街に向かう電車の中から始まる。なるほど確かに「実際に視聴者がこの街に旅をするかのように」というコンセプトに沿っている。

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1人称視点のゆったりとしたカメラワークで番組は進行する。移動中はカットシーンも少なめになっている。

アポイントメントは取っておらず、撮影時にすれ違った街の人々との偶然の出会いで番組は構成される。現地の言葉で交わされる会話に日本語字幕とナレーションが重ねられる。

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偶然だから当然、出演者は老若男女様々である。偶然だから当然、脚色の無いその街本来の姿を見ることができる。

 

 

8月20日放送のザルツブルク編で印象に残ったシーンがある。

 

番組の終盤、撮影隊はカリヨンのある塔を訪れる。

カリヨンというのは複数の鐘を組み合わせて一つの曲を演奏できるようにしたもので、オルゴール的な原理のやつである。

塔を上るとそこではカリヨンの調整が行われていた。決まった時刻を鐘の音で知らせる時計塔のような役割を果たしているこのカリヨン塔だが、なんでも月ごとに演奏する曲を変えているそうだ。

 

夫婦でずっとこの塔のカリヨンの調整を行い続けてきた女性に話を聞く。

 

 

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「彼がピンをさして 私が留めて ずっとふたりで作業をしてきたのよ」

 

 

放送を見てから、この言葉を何度も自分の中で反芻している。

実際にこの女性が喋っているのはドイツ語で、目にしている日本語はこの人じゃない誰かが翻訳したものであることはもちろんわかっている。そのうえで、この言葉は画面に映る女性と画面に映ることのない男性のふたりの生活を、人生を、愛情を、表しているようでとても耳触りが良かった。

 

もし仮に私に大切な人ができたとして、30年間ふたりで生活をして、30年後に先立たれ生活だけが残ったとすると、私は何を思うのだろう。

目の前の1日を生きることにすら精一杯な私にそんなことわかるはずがなかった。でもきっと、そんな精一杯の1日を積み重ねていたら30年になっていたんだろうな。

 

 

このカリヨンには旦那さんとの思い出が詰め込まれているんですね、と女性に呼びかける。

 

 

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世界ふれあい街歩き」はどこかの誰かの人生を私に届けてくれる。

 この番組は交差点になり、交わることのないはずだった誰かの人生と私を出会わせてくれる。

 

火曜日の夜の過ごし方、選択肢をひとつ増やしてみるのはいかがだろうか。