こたつモラトリアム

できることなら永遠にここで暖をとっていたい

カルチャーしか勝たん

 

台所の排水口を掃除している時に手を滑らして、危うくティースプーンを排水口の底へと落としそうになった。慎重にスプーンを避けながらふと排水口を覗いてみると、見覚えのないフォークが深くに沈んでいることにその時初めて気がついた。おそらく前の住人が落としたものだろう。この部屋で生活をしてもうじき3年になる。住み慣れた部屋だと思っていたけど、未だに知らない姿があるもんだな。

 

 

 

年末には大阪の実家に帰省するつもりだ。彦根を出ていく時も彦根に戻る時もJRの在来線を使う。

初めて彦根に来た時は車窓からの眺めに興味を持てなかった。何しろ全部が同じ風景に見える。田んぼと道路と建物。そうは言っても車内での過ごし方なんて限られているし、結局は音楽を聴きながら何とはなしに窓に目をやる。けれど彦根も稲枝も近江八幡野洲も、名前が違うだけで地続きに同じ景色が広がっているように見えた。

3年経ってようやく彦根と南彦根あたりは見分けがつくようになった。あれは県大だな、とか、あそこの道路ってこの前道に迷った末にたどり着いた道路だよな、とか、景色と記憶が結びついていく。県外から来る友達が口を揃えて「田んぼばっかりでなんもなかった」と言う眺めの中に、だんだん『何かある』ようになってきた。土地勘がつく、ってヤツか。

それでも散歩中にいつもと違う路地を曲がると全然知らないお店や建物に出会う。この道ってこの道と繋がってたんや!っていう発見がまだまだ出てくる。一つの町に馴染みを持つためには、5年はそこに住む必要があるんじゃないだろうか。私が死ぬまであと60年ぐらい。残りの12の町はどこにしようかな。

 

 

 

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気が進まなくて敬遠してた読書も表紙を開くと一瞬で、図書館で借りた本を授業のスキマに一息に読んでその日のうちに返却した。私は「気分じゃない」という理由で好きなものを遠ざけることがよくあるのだけど、ひょいっとその壁を乗り越えてしまうと「気分じゃない」気分がどんなものだったかも忘れてしまってケロっと元に戻る便利な脳みそ。違和感もモヤモヤも、ちゃんと向き合わなくたって結局は時間が解決してくれるのだ。それでも向き合いたいから、もがきながらも考えていたいからエネルギーを使うけどさ。

初めて読んだ作家さんだけど面白かった。一人の男とその不倫相手の女性二人の共同生活。登場人物たち三人の普通じゃない生活がやっと当たり前に溶け込んだところから物語は始まって、でもやっぱり普通じゃないから少しずつズレが生じていく、というお話。見かける機会があれば是非。

 

 

 

カルチャーがいつも、ずっと、私の側に寄り添ってくれている。音楽やマンガ、小説、ゲーム、ときどきアニメと映画。心の豊かさを保つにはなくてはならないものたち。急に好きになったり急に嫌いになったりしてもいい。そういう完全一方通行の関係に何度助けられたことか。私がそっぽを向いてる時は向こうも知らんぷりしてるし、逆に私がアプローチをした時は常に受け入れてくれる。実に都合が良い。

そういったカルチャーの作り手に憧れを持っている。誰かがうんと時間をかけて作ったものたちには必ずその人たちの人柄やメッセージが反映されるし、それらに心を鷲掴みされるのはとても心地がいい。音楽が頭から離れなくなったり、マンガのセリフを繰り返し反芻したり、ベッドの中でゲームをしたり。そんな自分を見つけるたびにクリエイターを尊敬した。いや、憧れや尊敬だけじゃない。いつか自分にもできないだろうか。自分の言葉や行動で誰かの心を掴んだり共感を引き起こしたりできないだろうか。本当はそんなことを考えている。

このまま漠然と生きてていいのかなぁ。 欲しいものがあったらちゃんと手を伸ばすべきなんじゃないだろうか。いつかできたらいいな、の「いつか」は果たして訪れるのだろうか。腹を括って文章を書くなり、音楽を作るなり、自分の好きなものと本気で向き合った方がいいんじゃないだろうか。『気が向いた時に気が向いた分だけ』という今の私の各カルチャーとの接し方は、確かに私の興味を全方向へ、ぐんぐんとストレスなく伸ばしてくれているが…この道の先には何かあるのだろうか。

 

 

 

順調に更新していたブログが8月以降ぱったりと止まってしまった。下書きでいくつか書いているものはあるのだが、書き出しは上手くいくものの、書いているうちに段々文章が翳りを帯び始めて記事の終わり頃には全体が重たい印象になってしまうことが多かった。文字数の少ない記事ならすっきりしたものを書ける気がする。試行錯誤の意味でも、これから少しの間は短い記事を短いスパンで更新するスタイルにしてみようと思う。オチの弱い日記が増えそうだなぁ。